こんにちは。
50代独身、実家暮らしのいさこです。
父の介護を振り返りながら、当時のことを書いています。
今回は、歯磨きの変化について。
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「歯は大事だ!」
これが、父の口ぐせでした。
そんな父が、認知症になると、自分で歯を磨くことさえできなくなっていきました。
歯をとても大切にしていた父
父は家族の中でも歯に対する意識が高いほうでした。
定年後は時間もあったので、月に一度は歯科医院へ行って、歯のメンテナンスをしていました。
わたしにもよく、
「8020を目指さなくてはいかん」
と言っていました。
8020というのは、80歳になったときに自分の歯を20本以上残そうという考えかたです。
家族の中でも電動歯ブラシを使っていたのも父だけ。
口臭予防のためにマウスウォッシュも使っていました。
インプラントも1本入っていました。
保険適用ではないので何十万円もかかったそうですが、
「これは半永久的に使えるんだ」
と、よく自慢していたのを覚えています。
それくらい、父は歯にお金をかけていました。
もともと几帳面な性格で、衛生的なことにもかなり気をつかう人でした。
そんな父が、自分で歯磨きすらできなくなるなんて。
当時のわたしは、そんなことになるとは思ってもいませんでした。
「お父さん、歯磨いた?」
認知症になってからも、最初のうちは歯磨きを本人にまかせていました。
介護では、
「自分でできることは、できるだけ自分でやってもらう」
ということが大切です。
だから、歯磨きも父が自分でできるうちは、自分でやってもらおうと思っていました。
それまでの父は、朝起きたら自然と歯磨きをしていました。
ところが、ある頃からようすが変わってきました。
朝起きて、そのままリビングにきて、朝ごはんを食べようとするんです。
「あれ?」
と思って、
「お父さん、歯磨いた?」
と聞くと、
「あっ」
というような顔をする。
どうやら、朝起きたら歯を磨くという習慣そのものを忘れているようでした。
そこから、朝の歯磨きの声かけがはじまりました。
「お父さんおはよう、歯磨いてね」
声をかければ、まだ自分で歯を磨くことはできていました。
でも、それも少しずつ、変わっていきました。
以前とは明らかに違う歯磨き
あるとき、父が歯磨きをしているところを、こっそり見ていました。
すると、
なんだか、ものすごく雑なんです。
以前の父は、電動歯ブラシを使って、かなり丁寧に歯を磨いていました。
それなのに、認知症になってからは電動歯ブラシを使わなくなりました。
使い方がわからなくなったのかもしれません。
普通の歯ブラシを使うようになりました。
そして、その磨きかたも以前とは全然違う。
歯ブラシを口に入れて、ちょこちょこと動かして終わり。
「これでちゃんと磨けているのかな?」
と思いました。
でも、
「磨かないよりは、いいか」
と思うことにしました。
一つ一つ気にしていたら、介護なんてきりがありません。
完璧を求めていたら、介護する側がもちません。
だから、その頃はそれくらいでいいと思っていました。
「上の歯みがいて、次は下の歯ね」
そのうち、父が歯磨きをするときは、母かわたしが横につくようになりました。
「上の歯みがいて」
「次は下の歯もちゃんとゴシゴシして」
「はい、うがいして」
そんなふうに、ひとつひとつ声をかけます。
声をかければ、まだできることもありました。
でも、だんだんと声をかけても上手くできなくなっていきました。
言われていることが理解できないのか。
歯ブラシをどう動かせばいいのかわからないのか。
少しずつ、わたしたちが手を出すようになりました。
認知症といっても、毎日同じ状態ではありません。
まったく自分でできない日もあれば、まだできる日もある。
昨日はできたことが、今日はできない。
そんなことが、だんだん増えていきました。
そして、とうとう自分で歯ブラシを持つことも難しくなりました。
一番困ったのは「うがい」
歯磨きができなくなることも困りました。
でも、わたしがとくに困ったのは、うがいができなくなったことでした。
水を口に含むところまではできるんです。
でも、その水を吐き出すことができない。
「お父さん、水でブクブクして!」
「はい、出して!」
何度言っても、口の中に含んだ水を出さない。
意地でも出さないように見えるんです。
でも、父はわざとやっているわけではありません。
認知症の影響で、どうしたらいいのかわからなくなっていたんだと思います。
それは頭ではわかっていました。
それでも、毎日のことになると本当に困ります。
洗面所に立っている父の背中をたたいて、
「お父さん、出して!」
と、水を吐き出してもらおうとする。
これが、ものすごくストレスでした。
父も悪くない。
わたしも悪くない。
でも、どうしても困る。
どうしたらいいんだろう。
そんなことを毎日のように考えていました。
半年に一度の歯科検診
認知症になると口腔ケアも大切だということは知っていたので、できるかぎり歯科検診にも連れて行きました。
本当は3か月に一度くらいが理想的だったと思います。
でも、認知症がすすんでくると、歯科医院へ連れて行くこと自体が大変です。
そのため、父の場合は半年に一度が精いっぱいでした。
歯科医の先生にも、
「父があまり歯磨きできなくなってしまって……」
と相談しました。
すると意外なことに、
「虫歯はないですよ」
と言われました。
さらに、高齢者の場合、虫歯ができても進行がゆっくりなことがあると教えてもらいました。
それを聞いて、少しホッとしました。
「ちゃんと歯磨きできていないのに……」
と思っていたので、歯ががんばってくれているような気がしました。
だから、できるかぎり歯科検診は続けようと思いました。
でも、それも限界がきました。
最終的には、診察台に座っても、父が口を開けることができなくなったのです。
歯科医の先生に診てもらうこと自体が難しくなり、とうとう歯科医院へ連れて行くことをあきらめました。
洗面所での歯磨きをあきらめる
歯科医院へ行くこともできなくなり、自宅での歯磨きもどんどん難しくなりました。
そこで、まずは洗面所で歯を磨くことをあきらめました。
父にはリビングのイスに座ってもらいます。
首元にタオルを巻いて、目の前のテーブルには洗面器を置く。
そして、母が父の歯を磨きます。
ただ、うがいができない可能性があるので、歯みがき粉は使いません。
歯ブラシだけで、できる範囲で磨いていました。
上手く口を開けられないこともあります。
歯ブラシを入れても、口を閉じてしまうこともあります。
母が、
「口開けて!」
「ほら、こっちも磨くよ」
と声をかける。
その声から、母のイライラが伝わってくることもありました。
わたしもその場にいて、
「しかたないよ」
と思いながら、どうすることもできない。
そんなこともありました。
あんなに歯を大切にしていた父が
父は、本当に歯を大切にしていました。
月に一度の歯科メンテナンス。
電動歯ブラシ。
マウスウォッシュ。
インプラント。
「8020を目指さなくてはいかん」
と言っていた父。
そんな父が、認知症になると、
歯磨きを忘れ、
電動歯ブラシを使わなくなり、
歯ブラシを上手く動かせなくなり、
うがいもできなくなり、
最後には自分で歯ブラシを持つことさえできなくなりました。
少しずつ。
でも振り返ってみると、
急激に変わっていったんだと思います。
あんなに歯を大切にしていた父が、こんなふうになるんだ。
そう思うと、ショックでした。
そして、どこかあきらめにも似た気持ちにもなりました。
認知症がすすむということは、
「できていたことが、ひとつずつできなくなっていく」
ということなのかもしれません。
歯磨きひとつをとっても、それを強く感じた出来事でした。
そして介護する側も、
「どうすれば以前と同じようにできるか」
ではなく、
「今の父にできる方法はなんだろう」
と考えていかなければならない。
それを、この頃のわたしは少しずつ学んでいたように思います。



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